物語「電信柱」


なにかい

俺の昔話を聞きてえって!?

まァいいやな。

そこじゃ端近、

こっちえ上がんなせえよォ。

とりあえず

茶でもいれるからよ。

そんな玄関先に

突っ立ってられちゃあ

こちとらだって

ち着かねぇってこと。

ズ・ズ・ズイーーーッと奥へ

つうほど広い家じゃねぇ。

見ての通り

小ザッパリした暮らしよ。

なァ~に人間80年もやってると、

もうこれで充分。

ほらほら、よく言うだろう

「起きて半畳、寝て一畳」

どんなに広い家に住んでも、

ひとりの占めるとこなんざ

決まったもんよ。

あんたら若けぇから、

胸いっぱいの夢を抱いて

ドンドンやってもらいてぇよ。

けどねぇ・・・世の中は

相持ちと思いつつも、

千石取れば万石羨むと、

人の欲にゃ際限なくてなァ。

欲に目見えず、

元の木阿弥って事も・・・

ままあるからねぇ。

「世の中は棒ほど願って

 針ほど叶うのが常」

と思って過ごせば、

なにも羨むことはないってネ。

おやおやせっかく取材とやらで

来て頂いた記者さんに、

無学のあっしが

初手から説教なんぞしちまって

スマナイねぇ。

年寄りと釘の頭は

引っ込むがよし。

控え目にしとかなくっちゃねぇ。

アハハハハハ

そうさなァ・・・

今のご時世じゃ、

銀座渋谷丸の内と、

ちょいと洒落た街にゃ、

電信柱は影も形も

見かけなくなっちまったかねぇ。

80年も前は、

そいつが文明開化の象徴(シンボル)・・・

証って時代でしたよ。

電信工夫ってのも、

結構イキな仕事で、

金にもなりやしたよ。

そりゃまぁ~仕事はキツイし

危険だしねぇ。

今みてえな安全基準・労働条件なんて

ありゃしねえ時代よ。

次々と電信柱をおっ立てて

電線を張り巡らす。

1日何里、十何里と、

朝から晩まで、夜も寝ずに

突貫工事の連続だァな。

山から切り出した原木を乾かし、

タールでいぶしてさァ。

穴掘っちゃあブッ立てて、

次から次へとねぇ。

碍子に電線(ワイヤー)巻いて

張るだけだから・・・

危ねえのなんの。

何万ボルトの電流が流れている中で

作業するんだもの。

でもさァ・・・村から街へ、

次々と電灯が灯い、

明るい夜がやってくる・・・

人様のお役に立つってぇのは

楽しいもんよ。

山ん中で、暗闇の中

穴を掘り、電柱を立てる・・・

そんな時に、俺たちが

昨日工事した小さな集落が、

夜目遠目にもボンヤリ明るく

輝いてるのを見たりすると

恍惚としたもんよ・・・

嬉しくてねぇ~。

あの小さな灯りの下で、

親子でメシ食ってんだろう・・・

一家揃ってラジオ聞いてんだろう・・・

笑い声のたえない・・・

その家族の温かさや楽しさが、

夜風に乗ってフワーッと

俺たちにも伝わってくるのさね。

電線伝わって

電気が西に東に

全国に流れるように、

灯りのついた家の明るさや楽しさがね。

 

「ああ・・・

 明るいねぇ、この光は」

 

「夜でもしっかり

 字が読めるなんて

 夢みたいだ」

 

そんな囁きが、風に乗って

伝わってくるんだものねぇ~。

電気工夫にすぎねぇ

無学の俺っちにも、

そんな時ハッキリわかったもんよ。

電気の素晴らしさは、

なんのこたァねぇ、

闇の世を明るく変えて、

人々に安心と幸せを

伝えることなんだってねぇ・・・。

そんな大きな力を、

五十歩でも百歩でも

世の中に広め続けていく。

こんな仕事させて頂いていることが

有り難くってねぇ。

そう・・・思いましたよ、

心からねぇ。

仕事とか務めつうのに

迷っている若い人が、

今は多いんだってねぇ?!

たま~に新聞を読むと、

子供や若い衆の多くが、

なにをやりたいか、

結構ウジウジと考え込み

迷ってるって

書いてあったけどね。

エヘヘ・・・俺なんか

考えても頭悪いからね・・・

頭痛くなるだけよ・・・

あははははは。

一日中いい汗かいて、

仕事が終われば

酒の一合とおつまみの1、2品、

メシの二杯も喉におさまりゃ・・・

もう極楽ですよォ。

まぁ・・・

運が良かったんだよね。

なによりも他人様に、光の有難さ、

電気の凄さを伝える・・・

俺みてぇな仕事につけりゃ、

これ以上の人生ありませんよォ。

人の喜びの為の柱・・・

電信柱を植えられた人生て奴はねぇ。

おーっとお茶入れかえようかい・・・

さめちゃったろう?!

まァ頼りねぇ話だけど、

シッカリ書いておくんなさいよ。

ペンも人様に光を伝える

凄い力持ってるに違いねぇからね。

一本一本、しっかり柱たてて

やっておくんなせえよ・・・!

 

おっとスマネェ・・・

また年寄りの説教の

繰り返しだ・・・

悪く思わないでくんなっ!

 

 

 

 

〈おわり〉


 

 

 

「電信柱」を

お読みくださいまして

ありがとうございました。

 

お読みくださいましたあなたに

少しでも

勇気希望

お届けできたら嬉しいかぎりです。

 

 

 

  ~感謝を込めて~

 

未来メディアアーティストMitsue