物語「料金皿のつぶやき」
ハァ~退屈だわぁ~
ファッホッホッ・・・
あくびしか出ないわぁ~
ファッホッホッ・・・
5時間もアタシの
出番はなしだもの。
おじさんの独り言と鼻歌も、
聞き飽きちゃったしなぁ。
ラジオでもかけてくれれば
いいんだけどなぁ。
ファッホッホッ・・・
窓開けているのはいいんだけど、
3月でも桜が咲くまでには、
まだちょっとあるんだから、
風は冷たいのよねぇ~。
窓閉めてくれないかしら・・・。
アタシ寒がりなのよね。
アルミの体のアタシに気を使って、
おじさんの趣味だか
なんだかわからないけど、
アクリルの白いフワフワした洋服を
着せてくれるのは
ありがたいんだけど、
それでも冷たい風は
苦手なのよねぇ~。
助かっているのは、
おじさんも寒がりで、
冷房が嫌いってことかしら。
お客さんが乗った時は、
冷房を弱くかけているけれど、
それ以外はOFF。
アタシとおじさんが
気があうところといったら、
これぐらいかしらね。
ちょっとぉ~!!
鼻歌ばかり歌ってないで、
お客さん捕まえてよ!!
ハァ~退屈だわぁ~!!
ファッホッホッ・・・
ヒャ~久しぶりに、
後ろの左のドアが開いたわ。
アラッ!!
すっごくイイ男!!
20分は一緒に居られるわね。
それにしても
話好きな男ねぇ~。
おじさんも喋るの好きだから、
ふたりで異常に
盛りあがっちゃってるわ。
ブス~ッと黙って
乗っていられるよりは、
アタシも楽しいけどね。
でもね、この男、興奮してくると、
アタシの体を押しつぶすから
やんなっちゃう。
アンタの力には負けないけど、
ちょっとばかり痛いから、
ゆったりと座って喋ってよ。
イイ男だけど、
落ち着きがないのは
わかったからさァ~。
あらァ~!!
も~降りちゃうの?!
5時間ぶりにアタシの出番ね。
財布の中の小銭なんか
探さなくていいわよ。
お釣りがないと、
アタシつまんないんだから。
いいから2千円ポ~ンと、
アタシの体に乗っけてよ。
ちょっとォ~
たかだか80円を
アタシの体に何回も
押しつけないでよォ~。
ふたりでお互いに
「いいですよ」って
言ってたって
仕方ないわよ。
おじさんがイイ男の話が
面白かったって
言ってんだから
「すいませんね~」って言って
もらっちゃいなさいよ。
今時80円じゃ
電車にも乗れないし、
ジュース一本だって
買えないわよ。
このおじさん、田舎から出てきて
東京に住んで40年。
「いいんですよォ~」って
顔は笑っているけど、
江戸っ子は一度出した金は
受け取れねぇんだぐらいの
気合い入っちやってるのよねぇ~
今のこの雰囲気だと。
アタシにはわかるのよ、
おじさんの気持ちがさ。
39年前、古道具屋で
おじさんに拾われたアタシは、
ポケットの中身の物置場。
ちょっとせつなかったけど、
それでもピタ~ッと寄り添って、
おじさんを見つめて続けていたの。
5年前から、おじさんと
毎日ドライブで、
結構楽しい日々を
送ってるのよ。
ちょっとォ~いい男!!
水色のネクタイが
くすぐったいから、
80円受け取っちゃいなさいよ。
受け取らないと、
おじさん絶対に
ドアを開けないわよ。
前にもいたのよ、
160円がアタシの体に
乗っていたの・・・
30分もよ・・・。
〈おわり〉
「料金皿のつぶやき」を
お読みくださいまして
ありがとうございました。
お読みくださったあなたに
少しでも
勇気と希望と夢を
お届けできたら嬉しいかぎりです。
~感謝を込めて~
未来メディアアーティストMitsue