詩集「いまは、今


【目次】

 

1.不思議のドーム

2.新しい発見

3.雲が 地上が 鏡だったら

4.ある・ない

5.まばたき

6.おいてきぼり

7.いろいろな真実

8.百面相の世界

9.壁

10.知りたい

11.心の時計


不思議のドーム

偶然は

偶然じゃなくて

たまたまには

意味があるなんて

ほんとうに

思わないほうが

いいんだ

 

この世界

なにからなにまで

不思議のドームに

囲まれているってこと

 

だからなにも

不思議じゃないってこと

 

はやくはやく

気がついたほうがいい

 

偶然の出来事だった

思い込んで

笑ったり

泣いたり

首傾げたり

していたって

空から落ちてくる

人間みたいないきものが

絶対に見えるはず

 

ため息ついたら

そいつはものすごい速さで

かけよってきて

思いっきり

顔を近づけてくる

 

なんともいえない息を

目に吹きかけてくるけど

ピンクかミドリか

いつまでたっても

わからない

キイロの

ほのぼのとした匂いだと

目をつぶりながら

感じるかもしれない

 

でもそれは

ほんとうにほんとうに

ただの勘違い

 

ドームの中は

不思議なことなど

なにもない

 

それは

たんなる出来事だって

 

はやくはやく

気がついて


新しい発見

目の上が重いと

けっこう気分まで重くなる

 

目の上が重いと

体全体の力がなくなり

考える力も薄くなる

 

そうなると

普段見つけられない

鏡に写るハエを見つけたりする

 

どうやらこのハエは

鏡が好きなようだ

一生懸命

鏡の中の自分に

ゴマをすっている

 

いやもしかしたら

鏡の中のハエが

今わたしと一緒にいる

ハエかもしれない

 

どっちにしろ

ひとりぼっちで会話している

 

なんだわたしと同じか

 

目の上が重くなっても

目に写るいつもの景色は

上も下も右も左も

すべて同じ

 

なんだ色も同じか

 

目の上が重いときは

思いきって

目をつぶってみる

 

目に写るものすべてが

気にならなくなる

 

ああ

そんなことだったのか


空が 地上が 鏡だったら

空が鏡だったらどうする

 

月だと思っていたのに

実は夜を愛する

人の心のかたまり

 

太陽だと思っていたのに

実は朝を待ちわびる

人の目のかたまり

 

星だと思っていたのに

誰も気がつかない宝物を

呼び起こすための化身

 

そんなことだったなんて

 

一番星みつけた

今日の勝利者

 

 

 

地上が鏡だったらどうする

 

大きな木だと思っていたのに

愉快に暗闇を操る杖

 

綺麗な花だと思っていたのに

行きたい場所への入口出口

 

ビルの群れだと思っていたのに

快い音を奏でる楽器

 

そんなことだったなんて

 

 

空と地上の間に行こう


ある・ない

知ってる知ってる知ってる
知ってるは知らない

知らない知らない知らない
知らないは知ってる

 

(知ってるは知らないの?)
(知らないは知ってるの?)

 

知ってるは
知らないことに
気がついている

知らないは
知ってることに
気がついている

気がついているんだよ

気がついているって
黄色い道だけが
見えているんだ


まばたき

変なリボンと奇妙な口
黒い瞳が
静かに静かに
右にずれていく

ほんの少しの間
どこかに釘付けになり
また
静かに静かに
ゆっくりと
少しずつ
左にずれていく

そんなこと
一日中繰り返している

見た人は
あまりの衝撃に
しばらくは
忘れられなくなる

全てが消え去ったあとに
幻覚を見るように
いつまでも
色つきで存在している

なんてすごいことだろう
まばたきはなんの意味もない


おいてきぼり

こそこそ歩いて
立ち止まり
前・右・左・後と
静かに見回す

くしゃみひとつしないで
首をゆっくり回転させ
前進している

たまに右手や左手を
ぶらぶらさせ
のれるリズムに
のったりもする

ドアを叩いて
どこかを覗いても
時計の音がするだけで
人の声はまったくしない
喋りたくなった時は
もうすでに遅い

前・右・左・後と
急いで見回すことを
止めてみても
さっぱりなにも
変わらない

そう
すべてにすっかり
おいてきぼり 


いろいろな真実

遠い遠い過去の自分に
逢いにいくことって
簡単なことだ
難しくない

その頃の自分に
逢いたくなったら
いつでも
逢いにいきなよ

誰もそんなキミを
とめたりしないよ

その頃のキミも
けっして逃げたりしないよ

装いは
違っているかもしれない
けっして
悪気のあることではない

そう
ただ照れているだけだよ

「こんなはずじゃなかった
 未来の自分は」

そんなことを
思うかもしれない

でもどこかで
見惚れているのも確かだよ

どんな気持ちになろうと
どんなことが起ころうと
それはぜんぶ
真実だってことさ


百面相の世界

どうでもいいことが
目にボンボン
頭にポンポン

でもなにもわからない
だからずっと待ちぼうけ

いったい
どのくらいの月日が
流れたのだろう
葉っぱの上に
立っているような気分

まわりは時計だらけ
いろいろな音が混じり合い
あまりのうるささに
どれも信じられない

ベルが
あちらこちらで鳴っている
新しい音が鳴るたびに
ビクッとしてしまう

ああ
うるさい

ああ
うるさい

どうでもいいことが
目にボンボン
頭にポンポン

でもなにもわからない
だからどの人見ても
同じに見える

まわりは時計だらけ
いろいろな音が混じり合い
耳に入る音はそればかり
口笛も鼻歌も聞こえない
自分の声も聞こえない

目にボンボン
頭にズンズン
の仲間入り

大きな木にしがみついて
離れない
そんなわたしを
みんな知らない

見せてあげようか
本当のこと

足の指を
つかまないで


ゆっくりとしていながらも
確かな時の流れの中に
この身を委ねていると
ある日突然
恐怖のあまり
震えさえ感じる
寂しさに襲われる

自分を含めた
あらゆる人との交流が
うまくとれなくなり
怒りという感情は
無意識のうちに
どこかに隠し
微笑みというシールを
身体中に貼って歩きだす

それは
思いやり・・・
いたわり・・・

それとも
もどかしさ・・・
せつなさ・・・

自分が伝えたいことも
相手が伝えたいことも
なにもわからないまま

まあ いいか

ほほ笑みを浮かべ
すべては終わる

こんなこと
長くつづくわけがない

長く続けば続くほど
心に焦りが芽生え
意識的にその場所には
誰も行かなくなる

どうしてだろう

ほんの些細な日常の出来事に
この身を置きたいと
誰もが感じはじめている


知りたい

知りたくて知りたくて
仕方がないことって
ほとんどない

 

だけど

 

電車の中で
わたしの前に座った女の人の
頭についている
大きな黄色いリボンが
気になる

 

知りたい
知りたい
知りたい
どうして頭に
大きな黄色いリボンを
つけているのか

 

知りたい
知りたい
知りたい
どうして靴に
大きな黄色いリボンが
ついているのか

 

思いきって
聞いてみよう

 

「どうして頭と靴に
 大きな黄色いリボンを
 つけているのですか」

 

ここは電車の中
悩んでいる間に
わたしと頭と靴に
大きな黄色いリボンを
つけている女の人の間には
どんどん人が増えて
いつの間にか
頭と靴についている
大きな黄色いリボンが
見えなくなってしまった

 

人の体と人の体の間から
人の足と人の足の間から
頭を前後左右に動かし
頭と靴についている
大きな黄色いリボンの行方を
追いかけ続ける

 

今どこの駅だろう
まだわたしの降りる駅ではない

 

安心とひきかえに
頭と靴についている
大きな黄色いリボンは
消えてしまった

 

知りたい
知りたい
知りたい
頭と靴に
大きな黄色いリボンを
つけている人は
この街に住んでいるのですか
恋人が住んでいる街ですか
気まぐれで降りただけですか

 

知りたくて
知りたくて
知りたくて

 

知りたくて
仕方がない


心の時計

わたしの背中から
アレがいなくなってから
目尻が急にたれ下がり
瞳にシャッターがおろされた

 

ストレッチ体操をして
ごはんを食べて
歯を磨いて
目覚めてから
出かけるまでの
朝のいつものパターン

 

わたしの背中から
アレがいなくなってから
いつものパターンは
なにも変わらないのに
何倍も時間がかかってしまうのは
なぜだろう

 

鏡に写るわたし
水たまりに写るわたし
なにも変わっていないのに
わたしの背中から
アレがいなくなってから
すべてにとても時間がかかる

 

手首にはめた時計
壁にかけられた時計
駅のホームの時計
すべて同じ時を刻んでいるのに
わたしの背中から
アレがいなくなってから
すべての時が
チグハグに感じられる

 

わたしの背中から
アレがいなくなってから
つまらない時が
刻まれている